アンコンシャスバイアスとは?―企業が踏むべきステップー

親が単身赴任している家庭を想像してみてください。

 
今、単身赴任をしていると想像したのは、父親ですか?それとも母親ですか?父親を想像した人が多かったのではないでしょうか。これがアンコンシャスバイアス“無意識の偏見”です。

1.アンコンシャスバイアスとは

アンコンシャスバイアスとは、自身も気が付いていない、ものの見方や捉え方のゆがみ・偏りのことを指します。
これは個人個人で内容が異なるだけで、すべての人が持っているものです。
なぜなら、脳は大量の情報の中から素早く物事を理解しようとするため、その人自身の経験や知識と目の前で起きていることを無意識に結びつけるからです。
先ほどの例で考えてみると、身の回りの単身赴任をしている家庭の多くが父親の単身赴任だった場合、脳が無意識にその経験と結び付け、単身赴任=父親と理解してしまうのです。
また、母親を想像した場合はこの逆が言え、もちろんこれもアンコンシャスバイアスです。つまりアンコンシャスバイアスは誰もが持っているものだと言えます。

1-1 代表的な例


アンコンシャスバイアスはさまざまな分類がされています。ここではその一部を見ていきましょう。

① ステレオタイプ

これが一番典型的なアンコンシャスバイアスの例です。自分の経験や文化から他人を出身国や性別、職業などで判断することをさします。大阪出身だからおもしろい、モデルだから背が高いなどもこれに当てはまります。

② 正常性バイアス

正常性バイアスは想定外のことが起きた場合に自動的にそれを正常の範囲内としてとらえ、心を平静に保とうとするメカニズムのことです。これは、多少のことが起こっても平常心を保つことで精神の疲れを回避することができる作用があります。また、災害時に起こる逃げ遅れはこの正常性バイアスが作動しているのが原因であるという見解があります。
緊急事態であるにも関わらずこの防御作用が働き、大丈夫だろうという思考に陥り、逃げ遅れてしまうのです。

③ 集団同調性バイアス

これは集団に属することで、判断に迷ったときなどに周りにあわせてしまう現象のことをさします。「多くの人がこのように行動しているからそれが正解だろう」と思った時は集団同調整バイアスが働いているのです

④ 一貫性バイアス

これは人の行動や言動に対して、一場面をみただけにも関わらず「この人はずっとこのような行動をとってきたのだ」と過去や未来に一貫性を持たせて認識してしまうことです。一度食事の際に手を消毒している姿を見ただけで「この人は今までもこれからも食事の前に手を消毒するのだろう」と認識することなどが例に挙げられます。

2.アンコンシャスバイアスと付き合う方法


アンコンシャスバイアスは無意識の偏見と訳されています。偏見と言われるとなくさなければならないと考えてしまうのではないでしょうか。
しかし、アンコンシャスバイアスのすべてが悪になるわけではなく、自身の考え方の偏りを偏りだと気がつかず、全人類共通だと思い込み、相手にネガティブな影響を与えることが問題であるとされています。これをしっかり理解することがアンコンシャスバイアスとうまく付き合う方法なのです。
また、アンコンシャスバイアスを意識しすぎたがゆえに配慮にかけてしまう場合もあります。例えば、小さい子供がいるから残業はさせないでおこうという考え方も一種のアンコンシャスバイアスです。
アンコンシャスバイアスを排除しようとして、相手がどのような事情を抱えていようと同じように仕事を頼む行為は本当に生きやすい世の中なのでしょうか。自身の考え方の偏りがポジティブな影響を与えるのか、ネガティブな影響を与えるのかは相手やその時の状況によるのです。では、どのようにアンコンシャスバイアスに向き合えばよいのでしょうか。

2-1.3つのステップ

アンコンシャスバイアスとの向き合い方を3つのステップでご紹介します。

① 知る

まずはアンコンシャスバイアスがどのようなものかを知りましょう。意味を理解することはもちろんですが、具体的な例を知ることで新たな気づきがあるはずです。企業のアンコンシャスバイアスにおいては、社員一人一人へ周知させることが重要なため、セミナーや研修を受講する機会を設けることが効果的です。

② 自覚する

次に自身がどのようなアンコンシャスバイアスを持っているかを自覚することが大事です。ただ、”無意識”的に作用しているものですから、どのような考え方の偏りがあるのかを自身で自覚することは難しいため、周りに客観的な意見を求めるのが良いましょう。
人に自身のアンコンシャスバイアスに気づかれたくない場合や、周囲から意見を求めにくい管理職のアンコンシャスバイアスの自覚には実際の事例をみてどのような項目があてはまるか考えることで、考え方の偏りを自覚することができます。
また、診断テストのようなものを受けてみるのもよいでしょう。自身が常識だと思っていたことが実はそうではないかもしれません。

③ コミュニケーションをとる

アンコンシャスバイアスが”配慮”になるか”偏見”になるかは結局のところ相手によります。しかし、相手がどう考えているのか100パーセント理解することは不可能です。ただ、コミュニケーションを密にとることで相手がどのようなことを不快に思い、うれしく思うのか知ることはできるのではないでしょうか。
アンコンシャスバイアスによって、すれ違い苦しい思いをしないためにはコミュニケーションをとることが必要です。
近年、ビジネスの場においてメールで連絡をとることが増えていますが、メールで感情を伝えることには限界があります。コミュニケーションをしっかりとるためにも、対話を積極的にかわすことがよいとされています。
以上のステップでアンコンシャスバイアスに向き合いましょう。

3. アンコンシャスバイアスへの企業の取り組み


アンコンシャスバイアスはポジティブな影響を及ぼす場合もあると述べましたが、性別や容姿に対するアンコンシャスバイアスは問題視されることが多いです。企業はこのアンコンシャスバイアスにどのように対応しているのでしょうか。

3-1 アメリカのオーケストラ

1970年代、アメリカの5大オーケストラの女性演奏者は5%以下でした。もちろんこれは意識的に女性を少なくしたわけではなく、オーケストラ側も演奏を聴き優秀な演奏者を採用した結果です。しかし、1980年代に入団希望者の容姿が一切見えないように演奏者と試験官の間にカーテンを導入したところ、女性の通過率が50パーセントも増加しました。
これは無意識のうちに試験官に容姿や性別に対する考え方の偏りがあり、カーテンを導入することでその偏りを修正することができた事例と言えます。

3-2 ユニリーバジャパン

ユニリーバジャパンは2020年度の採用活動から、応募者の名前や顔写真、性別に関する項目を一切排除すると発表しました。これは、採用に携わったことのある社員を対象におこなったアンケートで「採用過程において男性と女性が平等に扱われていない」と思う人が26.6%、「応募職種から男性候補者を優先したことがある」が18%、「写真の印象が採用の有無に影響すると思う」が44%という結果になったことを受け、同社が現状を問題視し実施に踏み切ったようです。
まだどのような結果になったのかというデータは出ていませんが、ユニリーバのような大手企業がこのような方針をとったことで今後これに追随する企業が出てくることが予測されます。

3-3 アシックス

アシックスは、フィードバックを受ける機会が少ない管理職は自身の考え方の偏りに気が付く機会が少ないと考え、そこに焦点を当てた対策を行いました。
具体的には、市販の無意識バイアスを定量化する実践型ツール(IAT)の導入です。このツールには他人の目に触れずに客観的な視点から、自身の考え方の偏りを自覚することできるというメリットがあります。企業としても、個人を特定せずに自社のバイアスの傾向を把握することができたようです。
個人でも企業全体としてもアンコンシャスバイアスの傾向をつかむことで、無意識の偏見を意識的にコントロールできるようになるでしょう。

4.アンコンシャスバイアスが全て悪なわけではない


今回はアンコンシャスバイアスについて考えていきました。これまで述べてきたように、アンコンシャスバイアスは誰もが持っているもので、それを持っていることが必ずしも相手にネガティブンな影響を与えるとは限りません。
よってアンコンシャスバイアスをなくすことは不可能ですし、受け取り手や場面によってはポジティブな影響を与えたり、ネガティブな影響を与えたりするため、なくす必要もないと思います。
一番重要なのは、自身のアンコンシャスバイアス”無意識の偏見”を自覚し、受け取り手と密なコミュニケーションをとることで、すれ違いをなくすことです。アンコンシャスバイアスとうまく付き合っていきましょう!

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